蛾流


4/月に一度の交流会での昨日のテーマは蛾でした。東大大学院総合文化研究科から神保先生のご講演で蛾について深く深くうかがいました。いろんな意味で衝撃的でした。3時間があっという間に過ぎ、周囲の迷惑も省みずに質問を乱発してしまいました。ごめんなさい。でも、面白かった。

** 蛾と分類学

なにしろ二番目のスライドでいきなり仰天です。蛾には130科、150,000種がいるというのです。ということは一つの科に平均で1,000種も?そもそも、生物って何種あるの?何か聞き間違えたのかな?いいえ、そういうことなんだそうです。蛾は種の多い昆虫のなかでも異様に種が多いのだそうです。だから、蛾は面白いのかと納得。

で、次のことにもびっくり。日本の蛾は80科6,000種なんだそうです。80科ということは全部の蛾の科の半分以上があるのに、種となると4%くらいしかないんだって?これまた、おかしくない?と思うくらい、日本というのは特殊な場所なんでしょうね。

蛾には羽を広げると人の顔くらいもある大きいものから、成長しても 6mm くらいの小さなものまでいるんだそうです。そのでっかいのが、夜の便所にいたら、思わず我慢するに違いない。形態もきれいなものもいれば、地味なものも、ハチのような形のものまでいるんだそうです。中には羽のないものも!そんな蛾たちのなかで、神保さんの関心と特に引いたのがハマキ蛾という葉っぱをくるくると巻く修正のある蛾だそうです。((ファーブル昆虫記には狩人蜂が葉を巻くとか書いてあったような気がする))

さて、この150,000種を分類するのもリンネのやりかたなのだけれども、これをどうやって系統化するのかは、ぼくの研究しているネットワーク構造のクラスタ発見とも似通っているのではないかと思い、興味津々でした。そもそも生物においては「種とは何か」ということが大きな問題のようです。専門家が集って、そのことだけで3時間は議論できるとか。たしか、ピーター・アトキンスもガリレオの指でいろいろ紹介していたけれど、それを読んだときの印象だとどうにもきちんとした定義はできなさそうな雰囲気でした。この記事を書いているうちに思い出したんですが、高校の生物の時間の最初に教わったのは生物と無生物の違いでした。なにやらコールタールのようなものを合成してそれがムクムクと成長する様子を見せて「これは成長しているように見えるけれど、生物とは呼びたくないですよね?」なんて言ってました。今、思い返しても素晴しい先生。

で、種という概念が微妙なところでの種の系統化の話に加えて、種というものが時代のなかで定まっていくというのが複雑なようです。昨日の話のなかで印象的だったのは、種というのは古くは論文のなかでスケッチされた固体を代表元とするのだそうです。真の種というのがあるとすれば、種のなかで DNA は固体ごとに少しずつ異なるはずだから、多少の広がりを持ったもののはずです。そのなかから種の代表として某昆虫のスケッチが採用されるわけです。固体が種に含まれるか否か、あるいはある固体がどの種なのかということは、たくさんある種の代表元との類似性から判断するようです。で、過去に見つかった代表元と十分な距離を持ったものが見つかれば、それが新種ということなのかな?あまり自身がありません。なにせビールを飲みながら聞いていた話だから。。。嘘書いてたらごめんなさい。

このあたりの話は複雑系ネットワークのクラスタリングと非常に似ています。クラスタリングにおいても、何らかの尺度を定めて一定の距離にあるノード同士をくっつけてより大きなクラスタに成長させていこうとするのです。そして、各クラスタを特徴づけるためにクラスタの中心あたりに一するノードをクラスタの代表元としてラベルに用いることもあります。

生物の分類で面白いと思うのは、その系統化がきれいに界・門・綱・目・科・属・種というように階層化されている点です。階層的なクラスタリングでいえば、その階層をあがっていくごとにどこかで線を引くということなんでしょうけれども、どうやるとここから上の固まりが属で、そこから下は種ということになるのかというのは気になります。それも150,000種もある蛾と種としてはヒトくらいしかない(?)ぼくらが同じレベルの固まりというのは不思議な気がします。ヒトについては、あまりサルと一緒になりたくないという我侭が強く働いたということがあるのかもしれないけれど。。。

** 蛾DBから生物多様性情報基盤まで、

さて、神保さん、研究の合間にセミプロの蛾友と協力してオンラインの蛾についてのサイトを次々と手がけてらっしゃいます。

– [[MothProg:http://www.mothprog.com/%5D%5D
– [[みんなで作る日本産蛾類図鑑:http://www.jpmoth.org/%5D%5D

そのことがきっかけとなって、いまは生物多様性情報データベースの構築で中心的な役割を果していらっしゃるそうです。これについては世界的な取り組みがあるのですが、日本としても頑張りたいということだそうです。

日本人と虫というのは世界的に例を見ない係わり方をしているようです。日本人の耳には心地よい鈴虫の鳴き声が西洋人にはホワイトノイズに聞こえないことは有名ですよね?世界ではある程度の専門家になると虫の種はラテン語の学名を用いるのが一般的なんだそうです。ところが、日本では和名が充実しているからプロでも和名で呼び習わすのが一般的なんだそうです。むしろ、海外ではマイナーな虫には一部の専門家しか使わない学名しか与えられていないということなんでしょうか。そうだとすると、日本人というのは、何だかんだ言っても、虫を身近に感じて、虫とともに文化を育ててきたということなんでしょうね。

こういう状況ですから、和名と学名の対応をとるデータベースというのは日本においては大きな意味を持つのだそうです。Homo Sapiens なんて言われるよりはヒトと言って欲しいものね。

海外ではすでに巨大なデータベースが構築されているそうですけれども、日本の研究者にもぜひがんばってもらいたいところです。また、機会があったら講演を聞かせて下さい。今度は大人しくしてますから。。。

生物多様性情報データベース

– [[Catalogue of life:http://www.catalogueoflife.org/search.php%5D%5D
– [[GBIF portal:http://www.gbif.org/%5D%5D
– [[Biodiversity heritage library:http://www.biodiversitylibrary.org/%5D%5D
– [[Encyclopedia of life:http://www.eol.org/%5D%5D
– [[Barcode of life data systems:http://www.barcodinglife.org/%5D%5D

** 夜の蝶はいないの!

蝶は蛾の一種だそうです。で、蛾の定義は、あの手の虫で蝶ではないものだそうです。元々、蛾がいて、蛾は夜に活動していたのだそうです。それが、昼日中に活動するようになったのが蝶だから、そういうことになるのだそうです。とはいえ、蝶になったけれど、やっぱりやめたという奴も出てくるわけで、そういうのが本当の夜の蝶ということになるのかな?