携帯基地局間情報から見たコートジボワール社会の分析


仙台で一昨日より開催されている情報処理学会の全国大会で川崎亮くんが携帯基地局間情報から見たコートジボワール社会の分析という標題で研究発表をしてきました.これは,フランステレコム/コートジボワール Orange という携帯電話会社より提供された二種類の通話記録データをもとに,コートジボワールの社会を分析することを目的にしたものです.

提供されたデータは,個人間の通話や,通話の内容は含みません.また,携帯電話は常時,基地局と通信しているのですが,その記録も含まれていません.そのかわり,通話は基地局間の通信(通話時間と回数)に抽象化されているので,それを元に個人の動きを具体的に発見することはできません.

ちょっと扱い難い面もあるのですが,そんなデータを用いて,今回はコートジボワールの主要都市の領域とそこで活動する人口,基地局周辺の地域性(居住地域と産業・商業地域の別)などをある程度,推定し,実際の統計データと推定の比較をしました.

論文はこちらにあります.

「そんなことは,ちょっと検索すればわかるから,いまさら調査しても意味ないんじゃない」なんて思いますか?でも,案外,そうでもないんです.コートジボワールでは,長年の激しい南北対立の結果,住民登録の記録が散逸してしまった地方があるのです.10年ほど前の紛争後は,この基礎データが失われたために,大統領選挙を実施することができなかったことが,民主化プロセスの障害となったようです.

ご参考 佐藤章(編). 紛争と国家形成 アフリカ・中東からの視角, 第 6 章:人口の管理という国家形成の課題. アジア経済研究所, 2012

実は,この論文を投稿するにあたって,研究の結果,推定された人口と実際の人口統計を比較したいと考えて,大使館に資料提供を依頼したのですが,お返事をいただいておりません.(大使館とのおつきあいがあまりないので,知らないのですが,もしかして,これが大使館の普通の対応?)

今後は,民族分布,宗教分布,いわゆる弱い紐帯の発見などに発展させたいと思います.

川崎くんが学部四年生ということもあって,川崎くんの講演は10分の発表が許される学生セッションで行われました.学生セッションでは約10件の発表のなかから,その場で座長が選ぶ学生奨励賞というものがあるのですが,このセッションの奨励賞は川崎くんに授与されました.おめでとう!