D4D: 日本で CDR が提供されない理由


以前コートジボワールで携帯電話サービスを運営しているFrance Telecom, Orange Cote d’Ivoireのデータを活用して研究していることを書きました.これはData for Development (D4D) という,データを用いた開発援助を目指したプログラムの一貫です.Call Direct Records (CDR) というのは,電話の受発信履歴のことで,この履歴に応じて利用者に利用料金を請求するためのデータですので,携帯各社いずれも保存しているものだそうです.

ビッグデータが叫ばれる時代にCDRが研究目的で公開されることがときどきあるのですが,今のところ日本では表立ってそういうことは起きていないのかもしれません.これについて,その方面の方にお訊ねしたところ,CDRの公開については憲法に規定される表現の自由との関連から,今のところ公開に至っていないと伺いました.

表現の自由については,日本国憲法第21条第1項において「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定められています.この内容に沿って通信事業者の権力行使を抑制する法律が電気通信事業法に含まれているようです.

電気通信事業者に対しては、電気通信事業法第4条第1項で通信の秘密について「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」

(Wikipedia「通信の秘密」の項より引用)

昔のことになりますが,東工大のネットワーク管理者に訊ねても,メールサーバのログは如何なる目的でも提供しないと断わられたことがあるのですが,彼らの態度も上の法律に沿ったものだったのですね.

この記事の標題には「日本で」と限定して書きましたけれども,表現の自由は,ヨーロッパの市民革命を経て獲得されたきたものなので,欧米諸国においても同様の事情があるのかもしれません.

そういった状況のなかで,今回,Orange社がNDA契約を結んだ研究者にCDRをご提供いただいたのは,画期的かつ驚くべき出来事なのだそうです.国の発展を加速するためにビッグデータを活用する政策判断がはいったのかもしれませんね.研究者としては貴重な研究資源をご提供いただいたことに改めて感謝します.同時に,こういったことを理解した上で,コートジボワールの人々にとって有用な成果を出す責任を感じました.